連れて行かれたのは、僅かな時を過ごしたあの邸宅。

建物に入るなり頬を打たれてその反動で床に倒れこむ。
何事かと慌てた使用人が数人やって来たが、すぐに屋敷から追い出された。

「立て」

見上げても視線が交わることはなく。
ふらふらとあとを着いて行く。見慣れたはずの後ろ姿が、どこまでも遠く感じられた。
錆びた味がする。唇の端から滲む液体に、頬を打たれた衝撃で口腔内が切れていたことに気付く。
痛みは感じなかった。
意識を支配しているのは、底の見えない喪失感だけ。

その間、声を出すこともできなかった。
息ができなくて、苦しいのか、息をすることすら、苦しいのか。
何も、何もわからない。
手首を縛られて服を剥かれた時、一瞬、過去のあの日の記憶が、目の前の光景と重なった。
あの時は怒りと憎しみと、そして恐怖とそして絶望と。
今は?

今は、ただ、悲しい――

喉に、あの人の手がかかる。
冷たい指。
力がこもると、たやすく呼吸は阻まれた。
……死ぬのだろうか?
霞んだ視界の先の彼の表情が見えない。
まぶたを閉じると、全てが闇に包まれる。
だけど畏れることなどなにもない。
これで私は、永遠に、貴方のものになるのだから。


20110607
ファイル整理をしてたら出てきたテキスト。なんというポエム。
DVシーンが絵で書けないので放置されていたのだと思われる。
アルフレートはヤンデレとはほど遠いキャラなのですが、病んでいるのは私がヤンデレスキーだからです。